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閑話「プロローグ」⑳
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「よくこのタイミングでのこのこと顔出せたな、おまえ」
それが、あの夜の一件の処分が正式に下って数日後、風紀委員会室にやってききた向原を出迎えた本尾の第一声だった。
声同様の面倒そうな顔で、珍しくたむろしている委員のいない部屋をぐるりと見渡す。
「出払ってるの見りゃわかるだろ、忙しいんだよ。おまえらの寮のどうでもいいもめごとで、うちの所属の委員を三人も減らされて」
黙ったまま机の前まで近づいてきた向原を見上げて、いかにもうんざりと溜息を吐いた。そうして、手にしていた書類を机の端に置く。
「言っとくが、俺はなにもしてないからな」
「なにもしてないわけねぇだろうが」
そうであれば、わざわざこんなところまで出向きはしない。この数日溜まり続けている苛立ちがにじんだ声に、本尾がふっと馬鹿にしたように笑った。
「ずっと追い出したがってた連中追い出したわりには、楽しくなさそうだな」
「……」
「ひどいことするよな、おまえも。あのレベルの騒動で退学なんて、はじめて聞いたぞ」
「あのレベルかどうかっていうのは、上が判断することだろ。俺はなにもしてない」
「どうだか」
信じていない調子で笑ってから、さっきの話だけどな、と本尾は切り出した。
「現場にいたのは、あいつら三人だけだったんだろ。俺もなにもやってない」
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