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閑話「プロローグ」㉑

「余計なことは言ったよな」  口ばかりでそこまでのことをするつもりはなかっただろう人間の、背を押すようなことを。  問い質すと、「鬱陶しかったんだよ」とあっさりと本尾は苦笑を返した。 「似たようなことばっかり言ってるから、いいかげんこっちも聞き飽きた。だから、それだけ気になるなら、確かめてみたらどうだとは言ったけどな」 「それで?」 「オメガかアルファかなんて一発でわかるだろ、とも言ったか」 「……それで?」 「あいつを引きずり込むのが難しいって言うなら、あいつが自分から入ってくるようにしたらいいだろ、とは言ってやったけどな。かわいい一年がいるんだろって」  かわいい一年が入ってきたとも騒いでたからな、と本尾が言う。 「まぁ、でも、それだけだ。猫かわいがりしてる幼馴染みのほうをターゲットにしてやらなかっただけ、感謝しろよ。基本的にあいつは自信過剰なんだよ。自分の名前にどれだけの力があると思ってんだ」  自信過剰という一点においては、異論はなかった。小さく溜息を吐くと、また本尾が笑った。 「本気で切れられても、それはそれで面倒だったからな。――でも、おまえのせいだぞ、それも」

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