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閑話「プロローグ」㉒
「なにがだよ」
「あいつの思い上がり。おまえが、らしくもなく裏で至れり尽くせりフォローしてやってるから、そうなったんだろうが」
嫌悪を隠し切れていない口調で、そう言い切る。その顔を、黙ったまま向原は見下ろしていた。その指摘自体はおおむね正しい。
らしくないことをしていたつもりはないが。すべて、そうしたほうが面白そうだったから、多少の操作をしていただけだ。
「あいつが特別なんじゃない。おまえがそうしただけだ」
「まぁ、そうかもな」
だから特別だったわけではない。おざなりに向原は受け流した。面倒だった人間を追い出したところで、今回は手を打とうと最初から思っていたのだ。
あとはバランスを適当に取る気にさせればいい。そのために、どうでもいい話に付き合ってやっている。まだここを切るには早い。
「とにかく、おまえの下は適当になんとかしろよ。これ以上、面倒なことはしたくない」
「あいかわらず勝手だな」
応じる声ばかりは大儀そうだったが、断らないことを向原は知っていた。想定通り、本尾は請け負った。
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