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閑話「プロローグ」㉕

「よく言う」  あまりの馬鹿らしさに、向原は同じ台詞を繰り返した。 「おまえ、寮長になってから、えらい大人しくしてたから。溜まってたんだろ」 「さっきから聞いていれば、人聞きの悪いことばかり。俺は良い寮長でいたいんだ。下級生の前で余計なことを言ってくれるなよ」  説教はもう終わりというていで、雰囲気を切り替えてから、それにしても、と茅野は問いかけてきた。 「おまえと本尾は、なんだかんだと言っていいバランスを取っていると思っていたんだが。それもやめるのか?」  なぁなぁで目を瞑り合ってきたことをやめるのか、という確認に、軽く肩をすくめる。 「べつに俺はどうでもいい。だから、まぁ、成瀬次第だな」 「喧嘩を売るか、どうか、ということか? 売るんじゃないか、今回は。このあいだの件が、かなり腹に据えかねているようだったからな」  次の会議あたりで爆発するんじゃないか、とどこか他人事のように判じてから、茅野が小さく溜息をついた。 「しかし、あいつは、榛名のなにをそんなに気に入ったんだろうな。このあいだも真夜中に食堂でごそごそとやっていたが」  ――オメガだから、気にかけてやってるだけだろ。  そう言ってやる代わりに、さぁな、とだけ投げやりに向原は応じた。  言葉にしたら、そうであればいいという願望がにじみそうで、許せなかったからだ。

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