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閑話「プロローグ」㉖

「まぁ、べつに、あいつがそれで安定するならいいはいいんだが。正直少し驚いたな」 「驚いた?」 「あれが、あんな短期間でただの一年生を懐に入れるとは思わなかった。……成瀬が特別扱いするのは、あの幼馴染みくらいのものだろうと思っていた当てが外れた」  それについては、向原はなにも言わなかった。反応がないことを気にしたふうでもなく、半ばひとりごちるように茅野は話を続けた。 「まぁ、たしかに、かわいい顔をしているとは思うが、中身はなかなか厄介そうだったしな。どちらかと言えば、高藤に世話を押しつけて悪かったと思っていたくらいだったんだが」  榛名は要配慮枠だったから、という台詞に、ちらりとだけしせんを向ける。 「わかってたんなら、ベータと組ませろよ」 「高藤の人間性を信用したんだ。それに、ああいうタイプを優等生なアルファと組ませるのが基本の枠組みなんだ。ほら、成瀬も入学時は柏木の面倒を見ていただろう。それと一緒だ。――ちなみにおまえは別の意味で配慮されてたんだがな。扱いにくそうなアルファというやつで。篠原も気の毒に」  当時の自分の同室者を勝手に憐れんでおいてから、それにしても、と茅野は呟いた。下級生の前では絶対にしないだろう、心底面倒くさそうな顔で。

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