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閑話「プロローグ」㉗
「榛名に成瀬を慕うなと言ったところで意味のない話だとはわかっているが。これ以上、妙なことにならないといいんだがな」
「妙なこと、ね」
十分、妙なことになっているだろう、とは思ったが、そちらは言わなかった。言ったところで意味のない話だと、向原もわかっていたからだ。
「必ずしも報われるとは限らないから、難しいな。誰かを好きになるということは」
それはまた、ひどく馬鹿らしい話だった。
そんなものに振り回される人間のことをくだらないと思っていたし、自分がそんなふうになるとは思ってもいなかった。
「くだらない話だな」
呆れたように笑って席を立つ。これ以上、くだらない話に付き合っても時間の無駄だ。そのまま外に出ようとしたところで、背中に問いかける声がかかった。挑発するでもない、静かな声。
「くだらないと言うが、おまえもそうじゃないのか?」
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