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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1-3

 この場で口を出すつもりはなかったので、苦笑気味に「そう、そう」と相槌を打つ。 「なにごとも経験だしね。まぁ、篠原には着いて行ってもらってるんだけど。向原はもともと入ってた別の会議に出てるし、どっちにしろ、しばらくはみんな帰ってこないかな。ほかの子も今日は出てもらってるから」 「そうなんですか」 「うん、だから遠慮しなくていいよ」  本当に中に誰もいなかったことに安心したのか、行人は肩の力が抜けた様子で、室内を物珍しそうに見渡している。  ――そういえば、最近……というか、高等部入ってから来てなかったな。  中等部にいたころは、もう少し頻繁に顔を出してくれていた気がするから、たぶん遠慮していたのだろう。  篠原などは、「向原にひるまず顔を出し続けるあたり、見かけによらず神経が太い」と面白がっていたけれど。 「そこ、座る? いつも皓太が使ってるとこだけど」  ほかの席より座りやすいだろうと勧めると、そうします、と頷いて行人が椅子を引いた。座ってからもその視線は興味深そうに机の周りに注がれていた。  ほほえましく思いながら、隣に椅子を持ってきて、話しかける。 「ちゃんときれいに使ってるでしょ、性格出るよね」 「寮の部屋も、たしかにきれいですね、昔から」 「だろうね。――それで、どうしたの。なんの用だった?」 「あ、えっと……」  ぱっと背筋を伸ばしてから、「用事というほどのことではなかったんですけど」と行人が口火を切った。 「終業式の前に相談してたことで、ちょっと聞いてもらいたいことがあって」

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