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パーフェクト・ワールド・ゼロⅢ②
一瞬だったが、成瀬の空気が揺れた。またか、と呆れるような気持ちで、言葉を継ぐ。どうせ、すぐに元さやに納まるのだろうと思う反面、最近は増えたなとも感じる。
成瀬と向原の諍いが。
――まぁ、似ているようで似ていないからな。
普段は、あぁ見えて、向原が成瀬にかなり合わせて歩み寄っている。真実は知らないが、少なくとも茅野にはそう見えているし、篠原も恐らく同じことを言うだろう。あまり親しくない人間は、成瀬が向原に合わせている風に捉えているかもしれないが、それはきっと正しくない。
「俺も何度も同じことを言いたくはないがな、この時期だ。しょうもない喧嘩であいつらに付け込ませるなよ」
「……喧嘩」
「なんだ。喧嘩じゃないとでも言うつもりか?」
その有様で、と言う揶揄は最後の情けで呑み込んでやったが。どちらとも六年間、一緒にいるのだ。ある程度は分かっているつもりだったから余計に、次の成瀬の反応は予想外だった。
「まぁ、そうだったら良かったんだけど」
「まぁ、でも、とりあえず問題は風紀だな。俺の中で、昨日のあれは一線を越したと思ってるわけで」
「それは分かるが」
釈然としないまま頷いた茅野に、成瀬が何でもないように笑う。
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