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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1-12

「っ――!」  衝撃に、ぐわんと脳が揺れた気がした。茅野はなにも言わない。けれど、どこを見ているのかはすぐにわかった。項。その視線に、ぞくりとしたものが走る。  手のひらで覆い隠してしまいたい衝動を押さえ込んで、机の下で手を握りこむ。本能であったとしても、怯えていると捉えられかねない行動など、絶対に取りたくなかったのだ。 「悪かったな、いきなり」  感情の伴っていない謝罪ではあったものの、続いて押さえつけていた手も離れていく。  一秒、二秒、痛みを堪えるように息を吐いてから、成瀬は顔を上げた。まだ少し心臓が忙しなく動いている。 「……茅野」  気にしないふりで拳を解いて、痛む額にあてがう。たぶん、はっきりとこちらの表情までは見えていないはずだ。 「俺もさすがに頭は石でできてないから、ふつうに痛い」 「いや、救いようのない馬鹿になっていたら、どうしようかと」 「まず先に口で言えよ」  打ち付けられた額を押さえたまま、溜息を吐いてみせる。どう思っているのかは知らないがふつうに痛いし、視界だって揺れたままだ。  確認したかったにせよ、ほかにやり方はあっただろうとも思う。 「まぁ、べつにいいけど」  感情が落ち着いたことを確認して、視線を合わせる。べつにいいと言ってやったのに、茅野は不納得そうな顔をしていた。 「おまえ、ちょっと俺に気を抜きすぎじゃないか?」 「なんで俺が悪いみたいに言うんだよ」  そもそも必要以上に気を抜いていたわけではないし、それにしても相手と場所くらい選んでいる。  まさか、そこまで直接的に来るとは思っていなかっただけだ。

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