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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1-14

「四谷?」 「そう。あいつは高藤のことがずっと好きだったんだろう。ようやく多少の踏ん切りをつけられたところで、また荻原――榛名のことを好きなアルファと一緒に過ごす時間を増やすのは、なにかあったときに酷じゃないかと言ってるんだ」  それはつまり、四谷が荻原に好意を抱いたときに、またしても「相手が行人を好き」という理由で振られてしまうことを懸念していると、そういうことなのか。  至極真面目そうな顔をまじまじと見つめてから、成瀬は首を傾げた。 「考えすぎじゃない?」 「考えすぎなくらい考えて、寮の運営をしてるんだ、こっちは。おまえと違って、このくらいの年の人間は、好きだのなんだのが頭の中心にあるやつが大半なんだ。それをないがしろにできるわけがないだろう。楓寮が拗れたいい例だろうが。おまけにあいつらは卒業までまだあと二年半あるんだぞ」  うんざりと否定されてしまって、恐る恐る問いかける。嫌な想像が頭に浮かんだからだ。 「……それって、茅野にも当てはまるの?」 「大半だと言っただろうが。俺がそうだったら、今おまえとこうして喋ってはいない」 「だよな」  よかった、と胸を撫で下ろすと、またなんとも言えない顔をされてしまった。さすがに二回目は食らいたくなかったので、乗り出していた身を引く。  その挙動にか、茅野があからさまな溜息を吐いた。 「おまえ、俺にもだが、向原あたりに殴られたくなかったら、いろいろと改めたほうがいいと思うぞ。本当に」

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