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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1-16
「――――ということだが、おい、聞いてるのか?」
「え?」
そうだとしても、皓太の選挙が終わるまでは付き合ってもらわないとなぁ、ということしか考えていなかった。
「ごめん、途中から聞いてなかったかも」
正直に申告すると、茅野が眉を寄せた。
「大丈夫か、頭」
「いや、まぁ、痛いは痛いけど。気持ち悪くはないからたぶん大丈夫じゃない?」
「いや、そういう意味ではなく、――まぁ、いいか」
「そういう意味じゃないって、失礼だな。大丈夫だよ」
「ならいいが。随分小さい頭だったから心配になって」
「悪口すごいな」
「スタイルが良いとでも受け取っておけばいいだろう」
おざなりに受け流した茅野が、もういい、と話を切り上げにかかった。
「とりあえず寮の運営の話だ。色事で揉められることが一番面倒くさいんだ。せいぜいおまえも気をつけてくれ、本当に。寮生委員の後任については、もう少し俺のほうで考える。なにも今すぐという話じゃないんだろう?」
「うん、早くても来月からくらいのつもりだったけど」
「なら、いい」
あっさりとした了承に、うん、ともう一度頷いてから、ぽつりと成瀬は呟いた。少し引っかかったのだ。
「面倒くさい、か」
「なんだ。似たようなことを言っていただろう、おまえも」
覚えている。恋愛って怖いよな、と知ったようなことを言ったのは、夏になる前の自分だ。
怖いということも、面倒だということも理解はできる。
けれど、恋愛などという一時的な感情で、物事の正しさがわからなくなってしまう気持ちに共感することはできそうになかった。
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