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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1-17
なんでそんなものに必死になることができるのか、よくわからない。
「なんなんだろうな、人を好きになるって」
「わからないのか? 本当に、まったく?」
試すような聞き方に、けれど、成瀬は頷いた。
「うん。俺にはよくわからない」
長い沈黙の最後に、茅野が目を伏せた。どう言うべきなのか熟慮するようにこめかみのあたりをトントンと指の腹で叩いてから、また顔を上げる。
「俺の言った一年の恋模様を聞いて、おまえはどう思ったんだ」
「……いい子だなとは思った。ちゃんとそれぞれ相手のことを考えてそうで。あと、できればみんな幸せになると良いなとも思った」
「小学生の作文みたいな回答だな」
「うるさいな。一応考えたんだよ」
「恋愛は怖いと嗤っていたやつが言ったとは思えないくらい、平和そうな回答だ」
「それは、まぁ」
そうする以外にないというように苦笑を返されてしまって、座りが悪くなった。どうせ、そういった方面のことを理解できていない。
誰が誰を好きだということはわかる。でも、おそらく自分がわかるのはそれだけなのだ。その感情に対する思いやりのようなものが、圧倒的に足りていない。茅野が言っているのはそういうことだとわかる。ただ――。
「行人だし」
その名前に自然と口元がゆるんだことを、成瀬は自覚していた。
恋愛などということはわからなくても、あの子だったら、そういった感情をきちんと大事にするだろうということはわかる。
だから、行人が関わっている、大事にしたいと願っている人間関係の輪なら、みんな幸せになればいいと思うことができた。そのための力になってやりたいとも思った。
自分には向いていない方向だと、わかってはいたけれど。
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