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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1-19
「誰もそんなこと言ってない」
「じゃあ、なんでそんな話を持ち出したんだ」
「それは……」
それは、の続きがなぜか出てこなかった。持ち出したのは、引っかかりを覚えたからだ。そのはずなのに、引っかかりを覚えたきっかけを見つけることができない。
人を好きになるどうのこうの以前に、自分のことすらしっかりと把握できていなかった現状に、半ば呆然としてしまった。
――気づかなきゃよかった。
そうだ。こんなこと。気づかなければ、ないものと同じなのに。黙り込んだ成瀬に、とどめのようにして茅野は続けた。
「そういった感情を持たない人間もいることは承知しているが、俺にはおまえがその類の人間にはどうも見えなくてな」
「……どういうことだよ」
「おまえお得意の気づかないふりを決め込んでいるように思えてしかたがない、と言ってるんだ」
つい先ほど思い浮かんばかりだったせいか、「気づかないふり」という言葉が思いのほかどこかに刺さった気がした。
再びの沈黙をどう捉えたのか、話を終わらせるように茅野が声音がやわらぐ。
「あと半年しっかり考えろと言ってるんだ。まだ時間は残ってる」
もろもろを呑み込んで、うん、と成瀬は頷いた。そうする以外に、この場を切り抜ける術がわからなかったからだ。
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