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パーフェクト・ワールド・ゼロⅢ④
[パーフェクト・ワールド・ゼロⅢ]
「うわ、酷い顏」
「……おまえにだけは言われたくない」
自分が口にした通りの「酷い顏」だったが、返す口調はいつもとさして変わらない。そのことに知らないうちに安堵したまま、荻原も笑みを浮かべた。
「いや、そりゃさぁ、仕方ないでしょ。朝方まで起きてたんだもん」
警備と言ってしまえばそれまでだが、他の寮からフェロモンに惹かれた生徒が侵入してこないか。櫻寮の中で間違いを犯そうとする寮生がいないか。ずっと神経を張り巡らしていたのだ。寮生委員会は寮の風紀を守るためにある。
「ま、他ならぬ榛名ちゃんの為だしね」
さらりと名前を出してみて反応を窺う。寸時、固くなった高藤の表情に、嫌味ではなく笑う。
「疲れてるねぇ、高藤。いつものポーカーフェイスはどうしたの」
朝も早い洗面所には自分たち以外誰もいなかった。いや、いつもだったら、自分よりも早く榛名が居た。可愛い顔をしているくせに、難しい表情を崩さない彼にちょっかいをかけるのが好きだった。たまに笑う顔が可愛いと思っていた。
「俺、知らなかったとはいえ、結構、榛名ちゃんに酷いこと言ってたかもしれないなぁって、昨日は結構、考えちゃったな」
例えば、水城のことだとか。他にもいろいろ。あの子の前で第二の性のことを話題にしたのも一度や二度ではない。その度に、あの子はどんな思いをしていたのだろうか。
そして、ふと思ったのは、その同室者のことだった。高藤は、頑ななまでに第二の性の話題に乗ってこなかった。
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