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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2-2
「だったら、口出さなきゃいいだけの話だろうが。気づいてませんって顔しとけよ」
堂々巡りの気配に辟易とさせられたのは、こちらも同じだ。面倒になってきて、手元に視線を戻す。
自分の席に戻るなり、部屋を出るなりすればいいものを、すぐ近くに留まったまま、篠原がまたひとつ大きな溜息をこぼした。
「だから、成瀬みたいなこと言うなっての。俺までそれしたら、誰が収束させるんだよ、これ。あいつはあいかわらずなにも知りませんって態度だし」
「……」
「それに、俺、おまえの、そのめちゃくちゃ静かに切れてるときの顔、苦手なんだって。だから、できればすぐにでもやめてほしいっつか」
だから、べつに、誰も怒ってるともなんとも言っていないだろうが。そう言ってやりたいのを呑み込んで、ちらりと視線だけを向ける。
「わかった。家でなんか言われたんだろ」
「なんでだよ」
見当違いな指摘に失笑すると、その眉間に悩むように皺が寄った。
「えー……、じゃあ和晃さん。俺、あの人苦手なんだよな。おまえのその顔見てたら、なんか思い出した」
勝手に人の兄の名前を出しておいて、ひどい言いようだ。「だから、言われてねぇって」と重ねて否定をする。事実だ。べつに、家でなにかがあったというわけでもない。
「家じゃないなら、結局あいつか」
おまえのその顔の原因、と心底嫌そうに呻いていたが、向原は否定も肯定もしなかった。その態度に、篠原が三度目の溜息を吐く。
窓からは、場違いなほどの眩い夏の光が降り注いでいた。
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