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パーフェクト・ワールド・エンド0-1
[パーフェクト・ワールド・エンド]
兄に、言われたことがある。自分と違って出来の良い兄だったが、年の離れた弟を可愛がってくれてはいた。多少、方向外れのところはあったけれど。
――行人は、僕とは違うから。無理して僕の学校に入る必要はないんだよ。
陵学園に入学することは、行人の家では当たり前のことだった。そのために努力していた。アルファであった兄と違って、自分は頭が特別良かったわけでもない。だから、必死に机にしがみ付いていた。それでも、小学校のクラスでは中の上、あるいは上の下と言う成績が精一杯で。両親は落胆の色を隠さず、今まで以上に期待を一身に兄に乗せるようになった。
――やっぱり、この子はオメガだから。
だから、駄目ね、と言わんばかりだったら、まだ良かったのかもしれない。
――私のように、良いアルファとめぐり合って、幸せになれたら良いのだけれど。
行人の母は美しいオメガだった。アルファであった父とつがい、兄と行人を孕んだ。行人によく似た、けれど行人には絶対に出来ない柔らかな表情で微笑む。それが、一番幸せな未来だとでも言うように。
――いつか、きっと。あなたのアルファが現れるわ。だから、そうね。無理して勉強しなくても良いのよ。あなたとお兄ちゃんじゃ、どう頑張ったって同じラインに立てないのだから。
慰めのつもりだったらしいそれは、酷い侮辱として行人の心に刻まれた。冗談じゃない。オメガだからと言って守られるだけの人生なんて納得できない。自分の未来は自分で見つける。
今思えば、幼かったのだと思う。現実を知らなかったのだと思う。けれど、行人はそう決めて、周囲から無理だと言われていた陵学園を受験し、合格を勝ち取った。
そして、――彼らに出逢ったのだ。
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