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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 3-8
「なんでもない。お疲れさま。俺も皓太ももうちょっと残ってると思うけど」
「大変だな、皓太が」
呆れたように笑って、皓太にちらりと目を向ける。その顔も、話しかける声のトーンも、まるでなにごともなかったかのように穏やかだ。
「適当に切り上げさせろよ」
「あ、はい」
お疲れさまです、と続いた台詞に小さく頷くと、向原はそのまま出て行ってしまった。扉が閉まってしばらくしてから、ぽつりと皓太が呟く。
「なんか、向原さん、すごいふつうだね。……というか、新学期始まってから、ずっとふつうだよね」
安心していいのかわからないと言いたげなそれに、成瀬は深刻にならないように笑った。
「ふつうなら、なによりだと思うけど。まぁ、もともと、感情の振り幅の少ないやつだし。あんなもんじゃないのかな」
「まぁ、それは、そうなんだけど。なんていうか、夏季休暇に入るちょっと前くらいまでは大丈夫なのかなって思ってたから。それこそ、俺が心配することじゃないんだろうけど」
「うん、大丈夫だと思うよ」
揉まなくていい気を揉んでいたことも承知していたので、はっきりと言い切ってやる。
それに、おそらくは、皓太にまでそんなふうに心配されていた状態がおかしかったのだ。
「皓太が気にすることじゃない」
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