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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 3-10

「すれ違いませんでした? 五分ほど前にちょっと顔出して、またすぐ出て行かれたんですけど」 「なんですれ違ってないんだ、ふつうに来たのに」 「すれ違わなかったんなら、風紀のほうに行ったんじゃない?」 「あり得る」  そう同意してから、「どうすっかな」とひとりごちる調子で篠原が呟いた。 「頼みたいことあったんだけどな、向原に」 「なら、呼んできますよ、俺。今日もう戻らないって向原さん言ってたから」 「べつに、そこまでは――って思ったけど、頼んでもいい? 見つからなかったら適当に戻ってきてくれていいから」 「わかりました」  こちらの作業は一段落したところで止まっていたから、ちょうどいいと判断したのだろう。行ってきますね、と告げて立ち上がる。本当に、今日は出入りが慌ただしい。 「篠原」  その背中を見送ってから、成瀬は軽く篠原を睨んだ。そうなるとわかっていて、なにがどうするかな、だ。フットワークが軽いのは後輩としては美点だろうが、それをていよく利用してやるな、としか言いようがない。 「おまえが行けよ」 「誰が無理に行かせたよ。やりとり見ててそれか。おまえ、なんか本当に過保護に拍車かかってない?」 「そういう問題じゃないから」  茅野のようなことを言われて辟易としつつも、苦言を呈する。 「あの言い方されたら、そう言うしかなくなるだろ。皓太なんだから」

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