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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 3-17

 ――自分を大事にしろ、ね。  それもまた、いかにもらしい真っ当な台詞だった。言われた相手が自分でさえなければ、それなりの顔で頷いてやることができるのだが。  よく、わからない。  ――でも、まぁ、べつに、わからないなら、わからないでもいいか。  理解のできないものなんて、いくらでもこの世には存在している。自分にとっては、たまたまそれだったというだけのことで、生きていく上でなんの問題もないことだ。  そう割り切って「篠原」と、ずっと座ったままの机を叩く。 「いいかげん退けって、そこ。たぶん、そろそろ戻ってくるから。向原見つけられたとは思わないけど」 「皓太、おまえ探すのはうまいんだけどな。向原はちょっと難しかったか」 「そこは、まぁ、年季が違うから」 「つまり昔から迷惑かけてたと」  呆れたふうに笑って篠原が机から下りる。そうしてから、ふと思い出したように問いかけてきた。 「おまえさ、皓太が通してほしいって言ったから、通すって決めたって、前、言ってたけど。あれって本心?」 「本心だけど」  その点についてだけで言えば、まちがいなく本心のつもりだ。なんでそんな確認を取られたんだろうと思いながら頷けば、篠原がまた小さく溜息をこぼした。 「だったら、いいけど。必要以上に怒らせたくないって言うなら、向原のほうもなんとかしとけよ。おまえ、自分がなにしたらあいつの機嫌が悪くなんのかも、どうしたらいいのかも、ぜんぶわかってるだろ」

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