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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 4-3
「あ、あの、ありがとうございました」
その声に、取り残されるかたちになっていた一年へと視線を向ける。
「あ、……すみません。えっと、向原先輩と同じ櫻寮の四谷です。本当に助かりました。ありがとうございます」
さすがに、情報としてであれば、寮生と顔の名前くらいは認識しているが。感謝されたかったわけでもないし、そもそもとして、この一年のために止めたわけでもない。
ついでに言えば、どうでもいい人間がどこで不用意なことをしていようとも、そうしてその不用意さでなにかに巻き込まれようとも、どうでもよかったのだが。
ほっとしたような顔を見ているうちに、一言言ってやりたくなってしまった。
「たまたま通りがかっただけだ」
「え……」
「毎回誰かが運よく通りがかって、助けてもらえるって思ってんのか」
「……そういうわけじゃなかったんですけど。でも、そうですよね。そのとおりだと思います」
すみません、と頭を下げた一年の拳が震えているのが目に入ったが、なにひとつ感情は動かなかった。強いて言うなら面倒で、追いやるように小さく溜息を吐く。余計なことを言ったのは自分だったが、これ以上煩わされたくない。
びくりと息を呑むような気配のあとで、でも、と震える声が感謝を紡いだ。
「ありがとうございました」
顔を伏せたまま逃げるように校舎に戻って行くのを見送って、向原はもう一度息を吐いた。
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