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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 5-4

「えっと……」 「よけいなこと話してごめんな」  ありありと伝わってくる困惑には応じずに、そう断って席を立つ。 「ちょっと出てくる」 「着いて行くけど」  ここ最近の流れで習慣のようになってしまっているのか、半ば当然と動き出そうとする。いいよ、と成瀬は目線と言葉で制止をかけた。 「もうすぐどっちかは戻ってくると思うし、続きしてて」 「でも……」 「大丈夫」  にこ、とほほえんで、言葉にしやすいほうの理由を選ぶ。 「篠原がなに言ったかは知らないけど、喧嘩を買う相手とタイミングは、ちゃんと選んでるから」 「いや、まぁ、……それもそうなんだけど。というか、そっちは一応信用してるつもりなんだけど」  じゃあ、なにを信用できていないのか、とは問わないまま、もう一度、大丈夫だから、とほほえんで、外に出る。  気を使わせるようになった非は自分にあるとわかっていたから、それで安心するなら、と好きにさせていたけれど、ずっと続けるわけにもいかないとは思っていたのだ。  廊下を進んで角を曲がったところで、窓の外を見下ろす。二十分ほど前に生徒会室の窓から、旧校舎のほうへひとり向かう姿を確認していたのだ。それがちょうどまたひとりで戻ってきている。  なにかいい話でも進んだのだろうか。そんなことを考えたまま、成瀬は静かに呟いた。 「……まぁ、いいタイミングだな」  先ほど言ったことに嘘はない。タイミングを選ばずに喧嘩を買う気も売る気もない。ただ、そのときが来れば、自分に都合よくことを起こすつもりはあって、そのためには、ひとりのほうがなにかと便利だ、というだけのことだ。

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