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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 5-10

「いいかげんにしろよ」  水城を愚弄するなとばかりに長峰は語気を強めたが、それだけだった。蔑む一瞥を残して、くるりと背を向ける。 「おまえのその手には、もう乗らない」 *  ――へぇ、珍しいな。  見下ろした寮の廊下の窓から、皓太と行人がふたりが出て行くところが見えて、成瀬は目を細めた。  公示をしたのが昨日。週が明けて立候補受付期間が始まれば、落ち着かないところがあるだろうし、それが終われば、今度は選挙活動が本格的に開始になる。  あっというまに終わりそうだと皓太も言っていたが、息を抜くのはこの週末が最後のタイミングだろう。  ――どっちが誘ったんだろう。行人かな。  頼ってもらいたい、というようなことを言っていたのは行人だ。学内から連れ出して、一息吐かせてやりたいと思ってくれたのかもしれない。  正解がどうなのかは知らないが、どちらにせよ、良い変化だ。そんなことを考えていたら、すぐそばで人が立ち止まった気配があった。  ひさしぶりに凪いでいたのに、と内心でうんざりとしつつ、振り向かないまま口火を切る。このあいだの件に違いなかったからだ。 「思った以上に冷静だった」 「あのな」 「手ぇ出してくれたら楽だったのに、当てが外れた」 「おい」 「たぶんだけど、本尾に俺の挑発に乗るなって釘刺されてた気がする。でも、もうちょっと煽ったら、いけた気もするんだけどな」

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