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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 7-4

 ――まぁ、好かれてると思ったことはないけど。  ひとりに戻った空間で、やりかけだった書類に視線を落とした。そうして、そっと苦笑をこぼす。  立候補届を出しに行く前に、わざわざ顔を出してくれたというのだから、律義にできている。そこまでしっかりと筋を通してもらうほどのことをした覚えはないのだが。 「長峰はともかく、本尾は向原に構ってもらいたいだけだと思うけどな」  昔から、変わらずそうなのだ。自分のことをよく思っていないことも事実だろうが、ついこのあいだ長峰を焚きつけていた理由も、せいぜいが「そのほうがおもしろい」くらいだろうと成瀬は踏んでいる。  そういう意味で、あの男はまともなのだ。まともだから、一線を越えない。  ――超えたほうが楽な気もするけどな。  まともで在り続けようとすることのほうが、よほど面倒だと感じる瞬間は、少なからず自分にも存在している。  やめようと思い切る気がないから、続けているというだけのことだ。  向原は、きっとわからないだろうけれど。わからないから、好きなことを勝手にあっさりと言えるのだ。

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