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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 7-5

 でも、と思ったところで、再びドアが開いた。皓太にしては少し早いなと訝しみながら顔を上げたところで、成瀬は軽く目を瞠った。 「……向原?」  いつもどおりと言えば、いつもどおりの、感情の読み取りづらい冷めた顔をしている。けれど、違和感が大きかったのだ。入ってきておいて、扉の前から動こうとしないことも含めて。  その顔を見つめたまま、にこりとほほえむ。 「どうかした?」 「来てただろ」 「え? あぁ、呉宮のこと?」  あいかわらず耳が早いと言えばいいのか。苦笑まじりに成瀬は言葉を継いだ。もしかすると、皓太とすれ違ったのかもしれない。 「まぁ、来てくれたけど。選挙のことで。……皓太にでも聞いた?」 「聞いた」  そこで、ようやく向原が表情を崩した。呆れたようにふっと失笑する。 「言ってたぞ、体よく追い払われたって」 「体よく追い払ったまでのつもりはなかったんだけど。でも、しかたないだろ。居合わせたままじゃ、皓太も気まずかったと思うし」  そうして、呉宮も。両者に配慮した――尤もらしい理由のつもりでしかなかったはずなのに、向原はまた呆れ切ったふうに笑った。 「アルファでもか」

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