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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 7-6

「……」 「あいつも、アルファだよな」  そんなことを言い出したら、それ以前にまず皓太がアルファだ。たしかに、アルファとふたりきりになるような真似はしないと言ったし、実際にそうしていた。半ば以上、あてつけだったが。  覚えた苛立ちを最低限だけ押し込んで、成瀬は笑った。 「なに。それで怒ってんの?」  向原のことを、やたらと機嫌が悪いだのなんだのとうるさく言っていたのは篠原だが、自分の機嫌ももうずっと良くはない。  どこかにあった罪悪感は、完全に流れ切っていた。 「警戒するような相手じゃないって判断してるだけなんだけど。なにか間違ってる?」  間違っていないと同じように判断したから、皓太もこれ幸いと席を外したのだろう。それを、この男にどうのこうのと口出しをされるいわれはない。そう思っていた。 「間違ってる?」  いやにゆっくりと言葉尻を繰り返して、向原が扉から背を離した。そのまま一歩こちらに足を踏み出した瞬間。言葉にならないぞわりとした感覚を覚えて、立ち上がる。  そうして、逃げ道を確保するように身体を机の横にずらしたところで我に返った。  ――なんだ、逃げるって。  アルファには負けないと思うことで、どうにかここまでやってきた。その自分が、本能のような恐れを抱いているなんてこと、絶対に認めたくなかったのだ。  緊張しかけていた身体から力を抜いて、「なに?」と問いかける。なんでもない調子で。

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