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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 7-10

 だったら、どうにかなんてなるはずもない。話を終わらせるように、にこりとほほえむ。その顔を呆れたように見下ろしていた向原が、「なぁ」と問いかけてきた。 「最後に聞くけど、おまえ、なんのために、ここに立ってんの」 「なんのためって……」  予想していなかった問いかけに、ことばに詰まった。 「皓太が言ってた。おまえは優しいから、自分たちのために、ここを守ってくれてるんだって」  笑えるよな、と続いた台詞に、揶揄し返すように笑う。この男からすれば、笑える話ではあるだろう。 「……たしかに、昔はそんなにたいそれたことは考えてなかったけど、今は多少は考えてるつもりだけど」 「違うだろ」  こちらの主張をいっさい信じていない調子で、そう切り捨てる。 「自分の利用価値を上げるために利用してるだけだろ、ぜんぶ」 「……」 「今が、正にそうだろ。皓太のためって名目で、自分の価値をつくろうとしてるだけだろうが」  らしいことを言うことも、煙に巻くことも、得意なつもりだったのに、なにも言えなかった。  そうだと認めることも、なにも。 「そんなに他人に評価されないと、自分を認められないのか」  自分のために、自分を大事にできないのかと言われているみたいだった。なぜそう思ったのかはわからない。過去に言われたことがあったからだろうか。茅野にも似たことを言われたばかりだったからだろうか。 「違うなら言えよ。聞いてやるから」  目を逸らした成瀬に、完全に呆れ切った調子で向原が笑った。壁についていた手が離れて、もう一度その拳が壁を殴る。それが最後だった。 「言えないなら、もうなにも言うな」

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