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パーフェクト・ワールド・エンド1-5

 本尾は平然と笑っていた。どこまで本気で疑っているのか、あるいは、当て推量を楽しんでいるだけか。 「まだ、隠してるのか? 櫻寮でオメガを」 「隠しているとは、人聞きが悪い。そもそも第二の性は大っぴらに言うようなものではないだろう」  第二の性は秘匿。アルファだろうが、オメガだろうが、誰でもこの学園では当たり前に暮らす権利が――。かつての自分が口にした薄っぺらい演説が頭を過って、消えていった。ただの、偽善。自分ですら信じていたのかどうかすら疑わしい建前。 「危険因子だろう、今のウチでは。オメガが一人で歩いているなんざ」 「仮にも風紀委員長の意見だとは信じがたいな。どんな生徒であれ、一人で歩くことを恐ろしいと思わせるような環境は、正常じゃない」 「そりゃ、理想論だろ。そこの会長様が勝手に創り上げた」  一笑して、本尾が続ける。 「おまえもそっち側の人間だとは知っちゃいるが、逆に聞きたいね、俺は。いつまでそれがまかり通ると思っているのか、ってな」 「現状を守るように努めるのが、俺たちのような役職持ちであり、最高学年の人間としての責任だと思うが。その役職持ちのトップとは言え、現状の責任すべてを成瀬に押し付けるのはさすがにどうかとも思うぞ」 「それもまた、正論だな。正論過ぎて、現実味が全くない」

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