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パーフェクト・ワールド・エンド1-8
けれど、それを正すことはできない。だから。そこまで考えて、思考の中心に黒い墨が落ちて広がっていくような感覚が走った。今は考えるべきではない、と振り切ろうとして、けれど、と。捨てきれないそれ。
――見透かされていた、と知った。
自分の不誠実さを。アルファを嫌いだと言いながら、都合の良い時にだけ頼ってきた。自分に向けられていた好意に全く気が付いていなかったとは言わない。気が付かない振りで、やり過ごそうとし続けていたことも。けれど、決定的に否定もしなかったことも。
すべてを、見透かされていた。
今まで、どれだけ甘えてきたのだろうと思った。我慢を強いてきたのだろうとも思った。茅野や篠原の言う自分たち二人の関係の見解は、「最終的には成瀬が思うようにしている」と言うそれで一致していた。
つまり、そう言うことで。
「……かった」
「ん、何か言ったか?」
「いや、なんでもない。でも、さすがに俺も、今の状態で、白旗上げるわけにはいかないから。そこまで心配しなくても良いよ。投げ出さない」
にこりと微笑むと、茅野は僅かに困ったように眦を下げた。
「これも言いたいわけでもないし、おまえが一番思い知っているとも思うが」
「うん」
「今、おまえが退いたら、ここは……榛名たちにとっては地獄になるぞ」
もう始まっているのかもしれない、とはお互い口にはしなかった。登校を促す鐘が鳴る。窓から見下ろした先では、校舎に続く門扉をくぐる生徒たちの姿があった。まだ今まで通りの日常を保っている。
「分かってる」
ただ、と最後に思った。俺は今までずっと己惚れていたのだろうな、と。
自分を見下ろしていた向原のアルファ然とした嫣然な笑み。俺の前で、あんな顔はしないと勝手に思い込んでいた。俺の前でだけは、創り上げた顔をしないと、そう思っていた。
それを奪ったのは、他の誰でもなく俺なのだろうけれど。
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