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パーフェクト・ワールド・エンド1-10

 守られなくとも当たり前の、意味があるのかどうも定かでない約束を。ずっと守っていたのは、成瀬ではない。向原だ。  最後に名前を呼ばれたのは、中等部の三年だったときだ。春だった。あのベッドの上。向原に一線を引かせたのは、成瀬の言葉だったはずだ。  ――おまえが、俺に何かするわけ、ないだろう?  傲慢に言い放った、親友と言う鎖。信頼と言う名の呪い。紡いだ約束が解け、呼応するようにすべてが無に帰した。  それだけだ、ともう一度、成瀬は呟いた。自身に言い聞かせるように。  それだけだ。自分のスタンスは変わらない。変わる余地もない。アルファとして、生きていく。この先も、ひとり。  行人に自分自身が告げた言葉が不意に思い出された。  ――つがいを見つけた方が、きっと幸せになれる。  それは一つの生き方だ。否定するつもりはないし、オメガとしての自分を肯定できるのなら、その方が幸せになれる。そう思うのは本当だ。  けれど、成瀬はそれを選べない。選ばないし、選べない。  ――そうだ。元々、あのままあいつとなぁなぁにしていたところで、何もなかった。  だから、決別が早まったのはきっと良かったことなのだ。  ――あいつに、とっても。

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