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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ Φ-2
「すごいねぇ。私の息子があんなおぼっちゃま学校に行くんだ。ねぇ、知ってる? 春弥。あんたの父親も、そこの出なのよ」
「へぇ」
気のない相槌ひとつで、封筒に書類をしまう。アルコールくさかった。
「よく自慢してたもの。間違いないわ。自分の息子もそこに入学させるんだなんだって。あんたが首席で合格したって知ったら、どんな顔するんだろ」
「さぁ、どうだろうね」
その男の本当の息子とやらは、あたりまえに中等部から入学しているのだろうから、どんな顔もなにもないだろうに。自分の産んだ子どものほうが優秀だったと、いまさらに認めさせたいのだろうか、と水城は呆れた。
「その息子、たしか、あんたとほとんど年も変わらなかったはずなんだけど。なんて言ったかなぁ、名前」
「ねぇ」
覚えた煩わしさに、延々と続きそうだった話を遮る。
「その話、まだ聞かないと駄目?」
過去の自慢話ほどつまらないものはないのに、今にも先にも何もないから、この女は何度も同じ話を繰り返す。聞き飽きているのだ。
うっすらと笑ってみせれば、とってつけたように女がほほえむ。みっともない媚を含んだ瞳。
「ねぇ、春弥」
伸びてきた指が、手の甲に触れる。
「私、あんたのこと、かわいいって思ってるのよ」
「……」
「だから、ほら。そんな良いとこに入れるまで、ちゃんと育ててあげたでしょ?」
だから、なんだ。嫌悪にまみれながら、内心で水城は吐き捨てた。だから、なんだ。だから、自分のしてきた所業を許せと言いたいのか。
謝罪ひとつでできないくせに、許されると思うな。まぁ、謝罪されたところで、許すつもりはないのだけれど。
すっかりとみすぼらしくなった女を見下ろして、にこりとほほえむ。美しい母にそっくりだと、気持ちの悪い男たちにもてはやされてきたそれで。
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