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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ Φ-4

 絶対に負けない。オメガに生まれたことも、あんな母親を持ったことも、すべて自分のせいではない。それなのに、それだけの理由で不幸になんて絶対になってやるものか。  自分は美しかっただけの母とは違う。捨てられることしかできなかった母とは違う。  自分ですべてを選び取って、この世で一番幸福なオメガになってやる。この汚い部屋には、もう二度と戻らない。集団の力で自分をいじめてきた同級生たちとも、二度と会わない。次に会うことがあるとすれば、それは逢瀬ではない。一方的に優位に立った自分を、なにもできず彼らが見上げてきたときだ。  今に見ていろ。今に見ていろ。呪いなのか、なになのかわからない鼓舞を、水城はずっとおのれに向け続けていた。  この学園にいる恵まれた人間には、きっと想像もつかないだろう醜いとどろを巻いた感情を。  大嫌いだ。自分と同じオメガのくせに、生まれた家が違うというだけで、恵まれて育ってきた人間が。自分たちのような生き物の存在を知らないだろう高慢さが。虫唾が走るという言葉では足りないほどに、本当に、心の底から、大嫌いだ。  そんな世界があることを知らないことは、ある意味で幸福な人間ではあるのだろうが。  僕とは、違う。なにもかもが、僕とは違う。けれど、僕を理解できる人間は、果たしてこの世界に存在しているのだろうか。  惨めだった世界を離れ、煌びやかな世界に触れるようになった今、そんなふうに思う瞬間がある。 *

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