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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ Φ-5

 満喫することのできた有意義な夏季休暇を終え舞い戻った学園は、夏の始まりのころにあった不穏な空気が変わらず漂っていた。  所属寮に流れる自分を腫れものとする空気も、それを擁護しようと躍起になっている空気も、もっと大きく学園全体に流れる、どこかギスギスとした空気も。  この学園にいる「まっとうな人間」が、居心地が悪いと評するすべては、水城にとってはそこまで気の悪いものではなかった。  自分を守りたがる取り巻きたちは心配顔を隠さないし、あまりに思い通りに事が進まないと苛立つときがあることは事実だが、それ以上に、自分が嫌いな人間がつくり上げたものが壊れていこうとするさまを傍観できる事実がなによりも面白い。  もっと面白いショーになるように、お手伝いをしてあげないとなぁという悪戯心が出てしまうくらいには。  鼻歌まじりに、水城はひとり外を歩いていた。まもなく夕暮れに近い時間である。  ハルちゃんみたいな子がひとりで歩いてると危ないよと忠告してくる人間は馬鹿みたいにいるけれど、今のところやめるつもりはない。もちろん、考えあってのことだ。 「あ、長峰先輩」  イメージしていたとおりの場所にイメージしていた人物を見つけて、水城はにこりとほほえむ。  この先輩が好む「純粋無垢で、それゆえに言動を間違ってしまうこともあるかわいい後輩」の無邪気な声で呼びかけて手を振ると、自分を見とめた彼の目元が柔らかになる。  あからさまな特別待遇は、昔から水城のお気に入りで、だから、この学園に入った当初、寮の中で自分の存在をお姫様として確立してくれた前寮長のことを気に入っていた。櫻や柊ではこうはいかなかっただろうから、そういう意味では、やはり自分は引きが良い。

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