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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ Φ-8

 だから、格下で庇護する対象であるオメガの力になりたがるのだ。 「寮長じゃなくても、……というか、ないからこそできることっていうのも、いくらでもあるし」 「……はい」 「だから、なにかあったら、頼ってほしい。これまでどおりに」  もちろん、と大きく頷く代わりに、あくまで控えめに水城は唇をほころばせた。自分を一番特別のお姫様のように扱ってくれる人間は好きだし、そうでなくても、これはまだ使い道のある必要な駒だ。 「心配してくださって、ありがとうございます」  でもね、僕には、ちゃんと考えがあるんです、とは告げず、もう一度そっとほほえむ。  自分の顔や笑顔がもたらす効果は承知しているが、あくまでただの武器のひとつだ。自分の一番の強みは、自分の頭脳だと思っている。  そうして、それは、自分が踏ん張って積み重ねてきたもののすべてだ。  生まれ持った性と容姿に自惚れ、なにも積み上げず、自滅を辿ったあの女とは、なにもかもが違う。  ――まぁ、でも、だから、もう少し僕らしく手伝ってあげてもいいんだけど。  あと二年半、ここで過ごす日々を自分にとってよりよいものにするために。  非常階段を離れ、寮に戻るでもなく学園の敷地内をふらふらと歩いていると、足音が近づいてきた。

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