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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 8ー6

「なんでって……、一応、寮の後輩なわけだし、見かけたから声かけてくれたんだと思うけど?」 「いや、それもそうなんだけど」  いや、まぁ、実際のところ、そのシチュエーションだったとしても、向原が声をかけるというのは、やはり意外ではあったのだが、四谷の声音が不本意そうに下がったので、慌てて行人は取り成しに走った。  自分の私情で、向原の評価が低い自覚はさすがにある。 「その、誰に絡まれてたのかなって。四谷、そういうの、うまく避けるから」 「あ、……えっと」 「四谷?」 「いや、誰って言っても、榛名はわかんないだろうなって思っただけ。上級生だったことはたしかだけど。というか、榛名と違って年中うかうかしてるわけじゃないから。たまたま。たまたまそうなったの」  憮然と言い切られて、また苦笑いになる。その行人を一瞥して、四谷が小さく息を吐いた。 「というか、そうじゃなくて。びっくりしたし、怖かったけど、うれしかったっていう話だったんだけど」 「……あぁ」  そういう話、と呟けば、さらに白い目を向けられてしまった。なんだかちょっと居た堪れない。 「榛名にそういう共感を求めた俺が馬鹿だった。もういい、今度からそういう話は時雨にするから」  ぜひそうしていただきたいと頷く代わりに、曖昧に行人はほほえんだ。精いっぱいの社交性である。でも、それにしても。

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