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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 8ー10

「ただいま。なに、どうかした?」  また変な顔してるけど、と早々に指摘されてしまったものの、そう言った当人も、なかなかに疲れた顔をしていた。  抱いていた諸々を呑み込んで、べつに、となんでもないふうを装う。できていたかは定かでないけれど、それ以上突っ込まれたくないという意思表示になればいいだけなので、まぁ、いいだろう。 「生徒会、今日も忙しかったの?」 「いや、忙しさはべつにそこまでなんだけど、なんか、……うん、まぁ、そんなとこ」  雑な返事ひとつで、高藤が隣の机で鞄を片づけ始める。その動きで、自分が片づけもしないまま机の前に立ち尽くしていたことに気がついた。できるだけさりげなく置いたままだった鞄に手をかけてみたのだが、ちらりと一瞥されてしまった。 「……」  同時にふたつのことができるほど自分が器用にできていないことを、行人はよくよく知っている。だから、ぐるぐると考え始めると、途端にそれ以外が停止するのだ。悪癖でしかない。  そうして、間違いなく、高藤もそのことを知っている。居たたまれないものを覚えて、行人は世間話を振った。 「えっと、ほら、選挙の立候補、どんな感じ?」 「べつに。……いや、べつに、というか。なんだ、予想の範疇内というか、そんな感じ」  答えたくないにしても、おざなりすぎるだろ。呆れ半分で溜息を呑み込む。高藤にしては珍しいくらいの、これ以上は言いたくないという意思表示だ。

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