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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 9ー5
「なにも変わりない、か」
ひさしぶりに足を向けた屋上で、煙草の紫煙を吐いて、成瀬はそっとひとりごちた。
完全にひとりになることができるという点では、寮の自室で過ごせばいいのかもしれないが、それはそれで最近はどうにも落ち着かないし、そうでなくとも、籠り過ぎていると、余計な憶測をされかねない。
そういう意味でも、適当に場所を変えて外で過ごすほうが、いくらか気は楽だった。
生徒会室で言ってみせたとおりで、「まとわりつかれる」こと自体を嫌だとも面倒だとも思っているわけではないものの、そばにいると気は張るし、それに――。
――まぁ、でも、気づかなかったんだから、あのころよりマシだってことだよな。
休暇に入る前のことだ。うっかり目の前でふらついてしまったことがあった。あのころほどのひどさにはまだなっていない。
――それも、あくまで、今は、なんだよな。
次の変調が見られそうになったときのことは、覚悟しておかないとならないのだろう。溜息の代わりに吸いさしを口に運んだタイミングで、めったと開かないはずの屋上の扉が開いた。
視線を向けると、目が合った茅野がわずかに驚いた顔をした。
「入るならドアは開けたままのほうがいいのか? それともいっそ会長の素行不良は見なかったことにして、立ち去ったほうがいいのか?」
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