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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 9ー10

「まぁ、向原は、おまえと向き合うときは、本気だからな」 「え?」  予想していなかった台詞に、視線を向ける。目が合った茅野は、ごくあたりまえだという顔をしていた。 「おまえには、たしかにきついかもしれないな」  第二の性にして誤魔化すな、と言われた気分だった。返すべき言葉がわからなくて、こめかみを揉むついでのようにして視線を外す。  本気。たしかにそうなのかもしれない。でも。  ――俺は、無理だな。  誰かに対して本気になんてなれないし、そもそもとして、なってほしいとも思わない。受け取ることのできる器ではないのだ。  またひとつ溜息を吐く。それ以上は、茅野はもう言わなかった。  茅野の言うところの「本気」をはじめて感じたのは、たぶん、三年前だ。複数のアルファに絡まれていた行人を助けた、夜。  そのときも、心配してくれているのだとはわかった。けれど、受け入れることはできなかった。  過信しているわけでもなんでもなく、自分であれば問題はないと思っていたし、その判断のとおり、なにも問題はなかった。だから、それでいいだろうと思っていた。

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