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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 9ー11

 自分はアルファだと、半ば本心で思い込もうとしていたから。  あのころの自分は、そうだった。たとえ、本来の性別がそうではなくても、少なくとも、この学園にいるあいだはそうなのだ、と。思いたがっていた。  だから、心配されたくもないし、庇われたくもない。  そういう目で見られたくもない。それを許せば、自分が自分でなくなってしまうと、思っていた。その自分の勝手を、押しつけていた。  ――べつに、なんでもない。  深入りをする気はないという、あるいは、なにを言っても無駄だという冷めた物言い。  その言葉を頻繁に向原の口から聞くようになったのも、そのころからだ。もう、三年。いまさらなにをどう言ったところで、取り返しのつかない時間が経っている。  ――まぁ、取り繕えるようなことなんて、なにもないけど。  それに、今も。  ――だから、なにも「違わない」んだろうな。  違うと真正面から言い切ることができなかったことが、すべてなのだ。あそこまで逃げ場なく詰められたことも、ひさしぶりだったけれど。  ひとりになった屋上で、また溜息を吐く。  もっと昔は、あのくらい言われたことはあった。はじめてだったわけでもない。ただいつからか、もの言いたげな視線を送ってくることはあっても、それ以上を向原は言わなくなっていた。――だから。  そう、だから。あの夜、向原は、なにかをやめたのだと思う。

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