916 / 1144

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 11ー7

 めったに生徒の寄り付かない屋上なんて、来たくもないところにやってきたのも、篠原が、「向原なら、たぶんそこだと思うけど」と言ったから、本当にしかたなくだ。 「そのわりに、するなとは言わないんだな」  本当に一瞬だけこちらを一瞥して、呆れたように向原が笑う。その視線は、またすぐに眼下の景色へと戻って行った。  篠原は、「あいつ、昔から、なんか高いところ好きだから」と向原が屋上にいる理由を説明していたが、もっと単純に煙草を吸いたいからではないだろうか。  吸いさしから流れてくる煙に、成瀬は軽く目を眇めた。煙草に手を出しているのは、この同級生だけではないが、なにが良いのかよくわからない。  ――いい学校だな、本当に。  成績と表の顔さえ維持していれば、裏の悪行には、大人はなにも口を出さない。それが、この学園の暗黙のルールだ。  フェンスに背を預けて、弁明する気の欠片もなさそうな横顔に、改めて視線を向ける。  予想どおりと言って差し支えのない反応ではあった。  口数が多い少ないという問題ではなく、向原は、自分に益があると判断したものか、興味が惹かれたものでなければ、極端なほど反応を示さない。  そんなふうだからまともに会話をする相手も限られていて、いいところ、篠原か本尾くらいしか思い浮かばない。そのふたりにしても、話しかけられたから受け答えをしている、というふうでしかないのだが。

ともだちにシェアしよう!