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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 12ー4

「うん。さっきまで時雨もいたんだけどね。だから荻原とふたりだったわけじゃないから」 「えぇ、そこ、そんなに強調しなくてもよくない?」  すげない四谷の態度に、荻原が苦笑いを浮かべる。そのやりとりに、行人は小さく笑った。  中等部にいたころは、こんなふうに思うことはできなかったけれど、今は、なんだかほっとするし、あたたかい気持ちにもなる。  ――家じゃないけど、寮自体にただいまっていう気分になるっていうか。  それも、昔の自分だったら、絶対思わなかったようなことだ。 「強調するに決まってるじゃん。誰に誤解されるかわからないし」 「誤解って」 「最近そういう話ばっかりで辟易してるの。榛名は? 今日は高藤と一緒じゃなかったんだね。高藤、もう帰ってきてるよ」 「あぁ、うん。さすがだね」 「いちいち感心してくれなくていいから」  おざなりに荻原に手を振った四谷が、「本当に忙しいんだね、大変そう」とこちらに向き直った。 「でも、気をつけなよ。あんまり遅いと、暗くなるし。いっそのこと、会長が終わるの待って一緒に帰ってきたらよかったのに」 「あぁ、……いや」 「まぁ、あの人待ってたら、どれだけ遅くなるかわかったもんじゃないか」  そう納得したらしい四谷に、行人は曖昧に笑った。

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