923 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 12ー4
「うん。さっきまで時雨もいたんだけどね。だから荻原とふたりだったわけじゃないから」
「えぇ、そこ、そんなに強調しなくてもよくない?」
すげない四谷の態度に、荻原が苦笑いを浮かべる。そのやりとりに、行人は小さく笑った。
中等部にいたころは、こんなふうに思うことはできなかったけれど、今は、なんだかほっとするし、あたたかい気持ちにもなる。
――家じゃないけど、寮自体にただいまっていう気分になるっていうか。
それも、昔の自分だったら、絶対思わなかったようなことだ。
「強調するに決まってるじゃん。誰に誤解されるかわからないし」
「誤解って」
「最近そういう話ばっかりで辟易してるの。榛名は? 今日は高藤と一緒じゃなかったんだね。高藤、もう帰ってきてるよ」
「あぁ、うん。さすがだね」
「いちいち感心してくれなくていいから」
おざなりに荻原に手を振った四谷が、「本当に忙しいんだね、大変そう」とこちらに向き直った。
「でも、気をつけなよ。あんまり遅いと、暗くなるし。いっそのこと、会長が終わるの待って一緒に帰ってきたらよかったのに」
「あぁ、……いや」
「まぁ、あの人待ってたら、どれだけ遅くなるかわかったもんじゃないか」
そう納得したらしい四谷に、行人は曖昧に笑った。
ともだちにシェアしよう!

