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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 12ー5

「夜もよくどこか行ってるし、掴めない人だよね。まぁ、それを言ったら、副会長もだけど。最近、ぜんぜん夜に寮にいないもん」 「それは、本当に昔からみたいだよ。茅野先輩が、鍵持ってるやつの勝手は放っておけって匙投げてたから……って、これは俺は言っちゃ駄目だね」 「本当だよ、寮生委員のくせに」  軽く呆れたふうに笑った四谷が、もたれていた壁から背を離した。 「ちょうどいいから、俺も戻ろうかな」  じゃあね、という言葉ひとつで、振り返ることなく四谷は出て行ってしまった。自分の部屋に入っていくところを談話室の入り口から見守っていた行人に、荻原がこそりと声をかける。 「よっちゃん、最近、ちょっと元気ないの、榛名ちゃん気づいてた?」 「え?」 「なんか空元気って感じなんだよね。まぁ、あの子もあの子で肝心なことはあんまり言わないから。なにが原因なのかは俺も知らないんだけどさ」 「……」 「榛名ちゃんも大変だと思うけど、よかったらまた気にかけてあげてね。同じクラスなんだし」  いつもと同じ人当たりの良い笑顔で話を切り上げて、荻原も部屋に戻って行く。つまり、その元気のなさを聞き出す機会を、自分は奪ってしまったのだろうか。  ――いや、そういう悪い意味で言ったわけではないと思うけど。  荻原の人間性が良いことは承知している。でも。空元気と言われても、今ひとつピンとこない自分の鈍感さに辟易としつつ、行人も寮室のドアにカギを差し込んだ。

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