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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13ー1
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土曜日の夜とは言え、門限を過ぎた寮の夜は静かだ。
できるだけ物音を立てないように気をつけて、寮の扉を閉める。元通りに鍵をかけたところで、成瀬はそっと息を吐いた。
――なにが、学校生活が始まったら、物の見事に悪化してるねぇ、だ。
最低限自覚しているから、来院のスパンが短いことも承知で出向いているのに、本当に気に障ることしか言われない。
苛立たしさで感情を乱すなんてこと、したいわけでもないのに。
カウンセリングですか、と嫌味を返したところで、子どもの癇癪とばかりにきれいに受け流されるので、なおさらだ。
――カウンセリングもなにも。きみが頑なに拒絶するから、カウンセリングのまねごとをしているだけじゃないか。
――そうだね。専門家としてではなく、きみに関わっている一大人として助言するとすれば、きみはもう少し自分の心と真摯に向き合ったほうがいい。
――結果として、それが一番の解決への近道の気もするけれどね。
聞き流したはずの言葉の数々を、連鎖的に思い出してしまった。こぼれそうになった舌打ちは、どうにか呑み込む。
誰かしらが出歩いていそうな一番上に行く気が起こらず、一階の廊下を歩いていると、進行方向の窓がほとんど音もなく開いた。
そこから中に入ってきた相手と目が合って、反射で思わず声が出た。
「……なんで窓から入ってくるわけ」
鍵を持っていなかったころならまだしも、今は玄関の鍵をしっかりと所持しているだろうに。
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