941 / 1144

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13ー7

 自分が納得しない限りは、こちらがなにをどう言おうとも。篠原がどう思っていようとも、そうだ。  口を閉ざすと、途端に医務室に沈黙が流れた。話すことはないということなのだろう。けれど、それは自分も同じだった。話せるようなことは、なにもない。  やり場に迷った視線を手元に落として、ひとつ溜息を呑み込む。  ――真摯に向き合ったほうがいい、か。  引き上げるタイミングを逸しているうちに、数時間前に聞いた台詞がまた頭を過った。  本当に、あの人は面倒なことばかりを言ってくる。そんなことをしてどうにかなるくらいのことなら、とっくに――。 「成瀬」 「なに……」  呼びかけに、半ば反射で顔を上げた瞬間。伸びてきた指がこめかみに触れて、声が途切れた。消毒液の匂い。  その指先が輪郭を伝って、首筋で止まる。 「次、俺も殴っていい? 顔」 「……いいもなにも」  ぎこちない笑みを浮かべて、成瀬は否定した。触れたままの指から、自分の動揺が伝わっている気がして、落ち着かない。 「首絞められるかと思ったんだけど」 「なんでだよ」  ふっと笑って、あっさりと向原は指を離した。 「茅野には殴らせてやったんだろ」

ともだちにシェアしよう!