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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13ー8

「殴るなんてかわいいものじゃなかった気もするけど」  三日は首が痛かったと言うと、いいな、それ、とどこか楽しそうに向原が笑った。 「なにがいいんだよ。ちょっとは大人しくなったと思ってたのに、ぜんぜん、あいつ変わってな……」 「残るだろ」  じっと見つめてくる瞳に押し負けた気分で、適当なことばかりを喋っていた口を閉ざす。  その目は、苦手だ。自分が必死に取り繕っているものすべてを、引きはがしていきそうで。その下にあるものを、いったいなんだと、この男は思っているのだろう。 「べつに、なにも残ってないよ」  張り付けていた笑みも仕舞って、溜息まじりに成瀬は応じた。 「というか、なんでもそうだろ。そのとき一瞬痛かったとしても、ぜんぶいつかは消える」  だから、べつに、なんでもよかった。面倒極まりないものから解放されるのなら、誰とやっても。  それだけのことのつもりだった。少なくとも、誘いに乗ろうとしたときは。 「馬鹿だよな、おまえ」  自分が連想したことを、どこまで気づいているのか。呆れたふうに向原が笑う。 「記憶は残るんだよ。あたりまえだろ」

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