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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 13ー11

「なんだよ、だから」 「……なんでもない」  この意味のないやりとりも、いったいこれで何度目なのか。わかっていても、そうとしか言えなかった。 「中途半端なやつ」  あいかわらず、とばかりの調子だった。言い返せるはずもなく、苦笑をこぼす。  それ以上はもうなにもなく、向原が立ち上がった。ドアが閉まり、気配が遠ざかっていく。  自分のほかに誰もいなくなった空間で、小さく息を吐いて、成瀬も立ち上がった。使ったものを戸棚に戻して、鍵をかける。 「あと、半年」  呟いた声は、自分自身に言い聞かせるものでしかなかった。でも、そうだ。あと、半年。あと半年、どうにかここで過ごし切ったら、ひとまずの格好はつく。区切りがつく。  ――そのあとは、べつにいいです、どうでも。あそこを出て、アルファと密接に関わらない生活になったら、多少は落ち着く。  根拠はなかったが、おそらくそうなるだろうという確信はあった。調子が崩れるのは、引きずられそうになるのは、あの男に関わるときだけなのだ。  だから、物理的に距離が離れたら、きっともとに戻る。戻らなくても、寮生活でさえなければ、どうとでも誤魔化すことはできる。

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