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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 14ー9
「あ……」
誰もいないと思っていたのに、狭い部屋の奥に人がふたりもいたのだ。目が合って、反射で後じさりをする。
その背中をぽんと受け止められて、行人は心底ほっとした。
「茅野さん」
呼びかけた自分の声がかすかに震えていたことに気がついて、驚く。なにをされたわけでも、言われたわけでもない。むしろ、自分の反応が過剰で失礼なくらいだ。
わかっていても、怖かったのだ。暗い部屋に複数の――おそらく、上級生のアルファがいることが。
行人の反応のおかしさに、茅野は言及しなかった。ただ、ごく自然と行人の前に出て、彼らに声をかける。いつもどおりの、なんでもない調子だった。
「藤野、赤崎。こんなところでたむろするな。真面目な学生が使用するときに困るだろうが」
「わかった、わかった。うるさいやつまでくっついてきたな。あのな、べつに、煙草とか吸ってねぇから」
「それこそ、校内ならべつに構わんが。寮では吸うなよ」
あっさりと受け流したところで、茅野がくるりと振り返った。
「ちょうどいい機会だ、榛名。練習と思って覚えておけ。こっちのデカいほうが藤野。三年で風紀の平だ。小さいほうが赤崎。こいつも三年だ。それでふたりとも楓寮だ」
「はぁ」
展開にまったく追いつけないまま、曖昧に頷く。印刷室の中はすっかりと茅野のペースになっていて、安心するやら、驚くやらで気が抜けたのだ。
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