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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 14ー11
その台詞に、行人ははっと茅野を仰ぎ見た。言い方はいつもとさして変わらない気もするのに、なんだか妙にぞわりとしたのだ。
「榛名もいいか」
視線を合わせた茅野が、言い聞かせるように続ける。
「話を戻すが、名前を正確に知らないと、なにかされても、すぐに相手を特定できないだろう。知っておくに越したことはない」
「えっと、……は、はい」
「特定できたら、俺に言え。潰してやる」
寮の中で困ったことがあれば、いつでも相談すればいい。面倒見の良い顔で気安く声をかけてくれるときと似た調子だったのに、頷くことはできなかった。
ぎこちなく固まった行人に、いいか、と茅野が繰り返す。
「覚えた顔と名前は、そうやって使うんだ」
その声にどうにか頷くと、バタンと扉が閉まった。ふたりとも出て行ってしまったらしい。
「榛名」
「あ、……はい」
「印刷、終わってるぞ。次の原稿に差し替えたらどうだ」
「あ、はい。……です、ね」
なにごともなかったふうな指摘に、行人は印刷機を確認した。次の原稿と差し替える。
――あれ、何部だったっけ。
急にわからなくなって、設定の前で指先の動きが止まる。悩んでいると、隣から伸びてきた指がさっと部数を設定した。印刷機が動き出す。
自分の指先が震えていた気がして、行人はさりげなく指先を隠した。きっと、気づかれていただろうけれど。
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