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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 15ー1

[15]  少し前の活気のなさが嘘のように、一年生のフロアからは和気あいあいとした声が響いている。  フロアの談話室で、選挙活動の作業をしているのだろう。漏れ聞こえるほほえましさに、成瀬は階段の踊り場で足を止めた。  ――でも、こうあるべきだったんだよな。  みささぎ祭の準備期間を経て、寮の同級生や上級生との距離を縮めていくことが、本来のスタンダードだったのだ。  学内の雰囲気の悪化に伴い、ギスギスとしたものになってしまっていたのだから、申し訳なかったという思いはもちろん持っている。  ――一番、気楽に楽しめるはずの時間だったのにな。  すぐに受験だなんだと違う要因で頭を悩ませることになるのだ。けれど、選挙が問題なく終われば、少しは落ち着いた時間を取ることもできるかもしれない。  そう思い切って、階段に足をかける。そのタイミングで呼び止められて、成瀬はフロアに続く廊下を振り返った。 「皓太」 「珍しいね、この時間に寮にいるの」 「そんな毎日どこかに行ったりなんてしてないから。皓太こそ、いいのか? 談話室、みんな集まってくれてるんだろ」  姿が見えたからと言って、わざわざ声をかけに来なくてもいいだろうに。声のするほうに視線を向けると、同じように目をやった皓太が、あぁ、と小さく笑った。どこかうれしそうに。 「もちろん顔は出すけど。最近は、けっこう榛名ががんばってやってくれてるから」

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