972 / 1144

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 15ー9

 本気で誰かと向き合いたいと思ったこともないし、誰かを好きになりたいと思ったこともない。その生き方を寂しいと感じたこともなければ、間違っていると思ったこともなかった。  それが、自分にとっての最良だと、幼いころから理解していたからだ。  そうやってさえいれば、周りに文句をつけられることのない自分でさえいることができれば、「ちょうどいい相手」などいなくても、ひとりで生きていくことができる。見返してやることができる。  ――なんだ、見返してやるって。  至った自分の思考に、成瀬は心底呆れた。  ――そんなに他人に評価されないと、自分を認められないのか。  呆れと苛立ちを多分に含んでいた声。自分の評価の軸を他人に委ねるなんて、馬鹿げている。あたりまえの思考として、そう答えることはできる。でも――。 「なにも返せないな、本当に」  似たようなことは、たぶん、何度も以前から言われていた。  聞く耳を持とうとしていなかったけれど、なんで、そこまで、と言いたくなるくらい、向原は自分のことを見ているから。  この分だと、なにも考えたくなかっただけだろうという指摘も、きっと当たっている。

ともだちにシェアしよう!