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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16ー16

「気になるなら、来たらいいと思うけど」 「は?」 「いや、その」  鋭く跳ね上がった声に、しどろもどろになる。とりあえず、絶対に逆切れすることだけはしないでおこうと改めておのれに誓って、行人は続けた。  自分の気が決して長くないことは、重々承知しているのだ。 「頼まれたわけじゃないけど、でも、荻原も気にしてたし」  呆れたふうな視線が突き刺さってくるが、四谷はなにも言わなかった。  ――でも、ここで、高藤も気にしてたって言うのはなしだよなぁ。  空気を読むことも苦手な自覚はあるが、さすがにその程度の配慮はある。朝比奈の言っていたことをいまさらだと思ってしまったこととは、また少し別の次元だ。  次の言葉に悩んで、そうかといって、「じゃあ」と立ち去ることも選べなくて。気まずく立ちすくんでいると、四谷がもう一度大きく息を吐いた。 「あのさ、もう放っておいてくれない?」 「え……」 「我慢しようと思ってたけど、本当に苛々するんだよね。その、こっちを気遣って言葉を選んでます、みたいな態度」  でも、それは、と反論しそうになった言葉を寸前で呑み込む。自分が言うべきことではないと思ったからだ。  そうして、四谷の言うことは間違っていない。どういう態度を取っていいのかわからず、上目線と評されてもしかたのない言動を、たぶん、自分は取っていた。

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